三省堂書店 出版事業部

『卒寿の埋火』 杉田多津子(著)

出版物タイトル 『卒寿の埋火』
分類 文芸
著者 杉田多津子
定価 本体1150円+税
発行 2023年8月
購入

オンライン書店 e-hon
三省堂書店の店舗在庫を探す

判型・ページ数 四六判・216ページ

内容紹介

90歳過ぎて今も心の中で、温かさを失わない埋火のような話をつづる。ロランの思い出も。
人生を深く味わうエッセイ。

山旅、お花、ヨーロッパの旅、俳句、「月光」の曲、ダンテ『神曲』、田舎のお坊さんとの話、
そして戦中戦後のことなど……

私は黙黙と真っ暗闇の道をお坊さんについて歩いた。
秋草が山道におおいかぶさり、風が吹くたび、葉ずれの音が聞こえるだけの深い闇。
あのときの私は、大学を中退し妹や弟たちの世話や家事一切をしていたので、
胸中は夜の真っ暗闇と同じ深さだった。
……小さな提灯の中で、ローソクの灯がかすかに揺れ、あたりをぼーっと仄明るくさせる。
岩のそばに淡紅色のナデシコや秋草が浮かび上がって見えた。
お坊さんが、「この花、悲しくても嬉しくても、なんにも言わずに咲いている」
……闇の中で無心に咲いているナデシコ。
いつの間にか悲しい心が安らいでいくような気がした。(本文より)