三省堂書店札幌店と北海道大学出版会様とのコラボレーションコーナーが第25回目の更新を迎えました。
第25弾は、北海道大学アイヌ・先住民研究センター助教の「石原 真衣」先生をお迎え致しまして、
『私たちが知らない私たちの世界―沈黙の可能性と暴力性』というテーマでお送り致します。
[選者より]
現在、世界は空前の「ダイバーシティ/多様性」ブームを迎えています。多様性に関する報道や書籍も増えています。世界的にみても、政治から経済、思想にいたるまで「SDGs」という記号が行きわたり、今後ますます需要が高まるでしょう。不平等や格差を是正し、持続可能な社会を目指すということは素晴らしいことです。
しかし、多様性を尊び、不平等や格差是正を目指すときに、立ち止まって考える必要があります。「私たちが知らない私たちの世界」について私たちは十分に考えられているだろうか。
ここで選書した30冊の本は、あなたがいるその場所で、見慣れた風景のただなかで、今まで知ることがなかったこと/もの、そして自分との出会いをもたらしてくれるでしょう。
このような異文化体験/自文化体験は、きっと次の世界を素敵なものにしてくれると信じています。
今回もその中から3点ほど、石原先生にご選書頂いた商品をコメントとともにご紹介致します。
●『〈沈黙〉の自伝的民族誌:サイレント・アイヌの痛みと救済の物語』
石原真衣 著 北海道大学出版会 発行 本体価格:3,500円
アイヌのクォーターである著者の「私」が、自己の存在を歴史化し、沈黙を構造化することで「サイレント・アイヌ」が生きる世界の一端を明らかにする。名もなき人びとが生きた歴史とはどのようなものであったのか、なぜ「私」の姿は人びとに見えないのか―家族史・自分史を紡ぎながら、マイノリティ等の声なき主体の問題を描き出す。
●『エスノグラフィー入門:〈現場〉を質的研究する』
小田博志 著 春秋社 発行 本体価格:3,000円
敬愛する師匠小田博志先生による本。「エスノグラファーはタフでなければ調査できない。優しくなければ調査する資格がない」。拙著『〈沈黙〉の自伝的民族誌(オートエスノグラフィー)』はおそらく日本で初めて「オートエスノグラフィー」を冠した書籍だが、その産みの親の一人は小田先生である。“いのち”の力を信じる小田先生による本書は、大学生のみならず専門家にもエスノグラフィー論の神髄を学ぶ一冊として読まれたい。
●『スピヴァクみずからを語る:家・サバルタン・知識人』
ガヤトリ・スピヴァク 著 大池真知子 訳 岩波書店 発行 本体価格:2,300円
欧米における知の地殻変動を担ったスピヴァクの、率直で素朴な言葉がつまった一冊。質問者とスピヴァクのシュールな応答が面白い。インドにいても合衆国にいてもなかなか他人に受け入れてもらえないとスピヴァクはいう。「空中に根を張っている」というスピヴァクは自分のホームにとどまらず、「空中」で思考し、そしてホームと繋がりなおす。私自身が経験した思考の軌跡を、スピヴァクの言葉に触れながら思い返す。
他にも石原先生には多数ご選書頂きました。是非、当店の売場にてご覧下さい。
次回は秋ごろ更新予定です!!今後の企画にご期待下さい。