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歴史の見直しから世界同時革命の未来的構想へ

『世界史の構造』
著者: 柄谷行人
出版社: 岩波書店
参考税込価格: 3,675円
ISBN-10: 4000236938
ISBN-13: 978-4000236935
4000236938.jpg1989年の東欧革命からソ連の解体、それに続くグローバリゼーションや新自由主義も破綻をきたし、世界の趨勢が見えにくくなっている現在、それを歴史的構造的にとらえなおし、未来に向けての構想を指し示す骨太な一冊である。しかも、世界同時革命などという過激な提言。これは読まずにいられない。

1990年代、著者は各国における資本と国家への新たな抵抗運動を構想していたという。それは、デリダの「新しいインターナショナル」の提唱や、ネグリ&ハートによる「マルチチュード」の世界同時的な反乱にも呼応するものだった。しかしそのようなオプティミズムは、01年に起こった9・11以後の事態によって破壊される。この事件は宗教的対立と見えるが、実際は「南北」の深刻な亀裂を露出させたもので、そこには諸国間の対立だけではなく、資本と国家への抵抗運動そのものの亀裂があったと著者は見る。資本と国家に対する抵抗運動は、一定のレベルを越えると必ず分断されてしまう。そこで、前著『トランスクリティーク』(2001年)での考察を、根本的に練り直すために、マルクスが提起した交換様式という観点から、社会構成体の歴史を包括的にとらえなおそうと考える。

著者は『トランスクリティーク』で、資本主義のグローバル化により、国民国家が消滅するだろうという見通しに対し、ステートやネーションがそれによって消滅することはないと述べた。先進資本主義国では、資本=ネーション=ステート(国家)という三位一体のシステムがある。まず資本主義的市場経済が存在し、これを放置すると格差の拡大と階級対立を引き起こす。それに対して、ネーションは共同性と平等性を指向する観点から、資本制経済の諸矛盾の解決を要求する。国家は、課税と再分配や諸規制によって、その課題を果たす。この三位一体システムは強力で、そのどれかを否定しようとしても、この輪の中に回収されてしまう。そこで、基礎的な交換様式を考察し、それらの接合としての社会構成体と世界システムが、どのようにして資本=ネーション=国家という三位一体を構成するに至ったかを明らかにすることによって、それを揚棄する新たな世界システムが実現されると著者は考えた。

まず基礎的な交換様式が歴史的にどう連関するかを見るために、それを4段階に分ける。(1)国家以前のミニ世界システム (2)資本制以前の世界=帝国 (3)資本制以前の世界=経済 (4)現在と未来。 ここでは、世界史に起こった3つの「移行」を構造的に明らかにし、それによって4つ目の移行、すなわち世界共和国への移行の手掛かりを見出そうとする。

最初の「ミニ世界システム」では、遊動的バンド社会から氏族社会への移行の前提に定住革命を位置づける。氷河期後の温暖化により温帯地域の森林化が進み大型獣が消え、採集に関しても季節的変動が大きくなる。そのとき人々が向かったのは漁業であった。漁業用の道具は簡単に持ち運びができないから、人々は河口付近に居を構え、定住によって栽培や飼育が可能になったのだ。すると人口が増大し、人々の間に葛藤や対立が生まれる。定住することで死者と近くで共存することを余儀なくされ、死者に対する観念が変わり、先祖神として奉るようになる。定住は備蓄を可能にし、不平等と戦争をもたらすが、それを回避するために氏族社会の贈与とお返しという互酬が成立する。メソポタミヤ、エジプト、インダス、中国の古代国家など、原都市=国家はいずれも大河の河口部にあった。漁業のために人々が集まり、栽培や飼育が始まり、交通の結節点だったから交易も始まる。そこに本格的な農業が起こり、国家が誕生する。このとき重要な役割を果たしたのが宗教であり、氏族・部族の神々を越えた神が出現する。

官僚制の誕生、国家と貨幣、貨幣の資本への転化、アジア的専制国家と帝国、普遍宗教、産業資本、ネーションの形成、社会主義と国家主義、福祉国家主義などなど、資本制社会の成立以降も社会構成体の歴史を生産様式ではなく交換様式を通してたどりながら、終章で世界同時革命の可能性に迫っていく。カント、ヘーゲル、マルクスの古典哲学を検証しながら、旧来の世界システムを越える世界共和国を示唆し、それは「ミニ世界システム」を高次元で回復することだという。つまりそれは、互酬的原理の高次元での回復を意味する。そして第二次世界大戦という人類の多大な犠牲の上に成立した国連が、たとえ不十分だとしてもこれを活用することなしに未来はないという。国連を新たな世界システムにするためは、各国における国家と資本への対抗運動が不可欠である。各国の変化のみが国連を変え、同時にまた国連の改革こそが各国の対抗運動の連合を可能にするとも述べるのだ。

歴史的な政権交代から1年が過ぎ、いまだに混迷を続ける日本の現状を客観的捉えて未来を眺望するためにも、ここでの俯瞰的視点は有効であり示唆的でもある。

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