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アメリカ文化を貫く「不服従」の通史

『ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学』
著者: ジョン・リーランド 訳者: 篠儀直子、松井領明
出版社: ブルース・インターアクションズ
参考税込価格: 2,940円
ISBN-10: 4860203526
ISBN-13: 978-4860203528
4860203526.jpgメルヴィル、ヘミングウェイ、チャンドラー…。文中にある名前に引かれて読み始めたが、大著で圧倒された。原題は「Hip:The History」。「ヒップ」と称される精神性を巡るアメリカの文化通史、つまり「歴史書」なのである。

著者は「ニューヨーク・タイムズ」の記者で、20年以上にわたり人種とポップ・カルチャーについての記事を執筆。〈アフリカ人がなければ、ヒップもなかった〉と考える著者は、20人のアフリカ人が英領北アメリカのヴァージニア州ジェイムズタウンで売買された、「1619年」を起点にヒップの歴史を書き始める。アフリカ人とヨーロッパ人は新天地で出会い、それぞれのルーツを背景に、自分たちをアメリカ人につくり直していった。黒人と白人の習慣はやりとりされ、特に19世紀以降、音楽、映画、文学、アート、ファッション、広告、ビジネスの各ジャンルで、世界的な潮流がアメリカから生まれた。

ブルース、ジャズ、ロスト・ジェネレーション、ビート、デジタル・ヒップ。滔々たる大河の流れのような通史を、中立的な筆致で綴る。もの凄い数の”ヒップスター”が登場するが、〈なにしろ本書は穴だらけだから〉、マイケル・ジャクソンには触れていず、60年代の大衆的カウンターカルチャーのモデルになった40、50年代の「ヒップ黄金時代」に紙幅を多く割いている。「歴史書」だから、人物の紹介は端的だ。ただし中身は、模範的、教科書的なものとはほど遠い。〈チャーリー・パットンは、説教師である父親を無視し、酒、悪魔の音楽、取り巻きの女たちからなる放埒な人生を送った〉〈レニー・ブルースは四一歳のとき、麻薬のやりすぎで逝ってしまった〉〈キャサディは、メキシコのサンミゲル・デ・アジェンデの線路脇に寝そべって凍死した。あと数日で四二歳という年齢だった。酒にむしばまれたケルアックも翌年生涯を終えた。四七歳だった〉などである。

そもそも、ヒップとは何か? ルーツも信教もごちゃ混ぜの国アメリカにおいて、たとえば黒人と白人が、ユダヤ教徒とキリスト教徒が、せめぎあう中で生まれてきた自己表現法、他者の個性を認めながら、自己をつくり直してアイデンティティを保つ、個人主義の一形態と言える。アメリカ人の根っこには、既存の文化や制度に対する「不服従」の姿勢が根ざしており、この精神性は「アメリカ」を推し進める動力源のひとつになった。1619年以降、白人と黒人、ふたつの集団の長い相互作用の結果、2009年に初のアフリカ系大統領が誕生したわけだ。「ヒップ」についての物語は、アメリカの歴史でもあった。

それにしても、本書に記される人々のようなエネルギッシュな生き方は、私にはとてもできないと思う。「ヒップ黄金時代」には生まれていないし、どの人も”遠い存在”すぎて憧れることもないが、「iPod」には毎日お世話になっていて、私も「ヒップ」の影響を何げなく受けている。原著は2004年刊。白人ラッパー、エミネムが直近のヒップスターとして記され、その後も流行は移り変わり、「ヒップ」は続く。

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